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2006年05月23日 民法入門15 「その気もないのに・・・」

法律行為 意思表示 心裡留保 ―民法入門15―
「その気もないのに・・・」

私の働いている大阪事務所から橋を2つ渡って歩いていくと、約5分で日本有数の歓楽街である北新地に到着です。煌びやかに輝くネオン街の下、今夜も艶やかなドラマが繰り広げられている。

ママ 「あら~社長、久しぶりやん。」
社長 「何を言うてんのや、ママ。先週来たところやがな。」
ママ 「だって社長、この間帰るときに毎晩来るって言うてくれたやん。」

そんなやりとりの後、酔いが回ってきた社長は、だんだん気が大きくなってきました。

社長 「なあ、ママ。わしはママのことがほんまに好きやねん。」
ママ 「ほんま?じゃあ証拠みせてや。」
社長 「よっしゃ、この腕時計やるわ。」
ママ 「これ200万円ぐらいするんちゃうん?」
社長 「そうや、先週買ったばっかりの新品や!」
ママ 「やった~。ほんまに頂戴なあ」
社長 「ママが喜ぶんやったら安いもんやっ!!」

もちろん社長は、単にママの気を惹こうとしただけで、本気で腕時計をあげようとは思っていませんでした。
この場合、社長がママに言った「腕時計をあげる」という行為は有効でしょうか?(ちなみに、法律上は社長からママへの腕時計の贈与契約ということになります。)

答えは、原則としては有効です。

『意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。』(民法93条)

このように表意者が真意でないことを知りながらする意思表示を民法では「心裡留保(しんりりゅうほ)」といいます。

社長は、ほんの冗談のつもりで言ったのですが、法律上は有効なのです、一応は・・・。
一応と言ったのは、民法93条には続きがあるからです。

『ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。』 とあります。

実は、ママも、そんな高級腕時計を本気で貰える訳は無いと思っていました。また、仮にママが本気で貰えると思っていても、一般的に「社長は本気で言ってない」と考えるのが通常でしょうから、この場合、先程の「贈与契約は無効」ということになります。

相手方が、本人の言っていることが本気でないと知っている場合や、知ることができる場合にまで相手方を保護する必要はないからです。

では、先程の北新地の二人の会話に戻ってみましょう。ママの関心を惹こうとした社長が、ママに証拠をみせてと言われ、その気も無いのに、

「よっしゃ、ドン・ペリ入れたるわ!!」といった場合は、どうでしょう?

この場合は、状況や値段にもよりますが、有効である可能性のほうが高いでしょう。どうせ言うなら大風呂敷を広げたほうが、懐は痛まずに済むかもしれません。(ただし、当事務所では一切の責任は負いませんが・・・)

では、最後にもう一問。 
証拠をみせてと言われた社長が、その気もないのに、 

「よっしゃ、結婚しよっ!!」
と言った場合はどうでしょうか?

この場合は、社長にその気がない以上、婚姻の意思表示は無効となります。身分上の行為には心裡留保の規定は適用されないからです。

そんな、北新地のドラマを横目に、私は今日も脇目も振らず自宅へ一直線です。(その気もないのに・・・)

(作成者 波止 哲)