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権利の窓

2008年07月03日 民法入門43 「公示苑」

物権変動の公示 ―民法入門43―
「公示苑」

ご無沙汰をしております。この「新・権利の窓」は当事務所の職員が当番で執筆しているのですが、自分の番が回ってくるのが不定期であるため、ずいぶん久しぶりの執筆となります。

さて、今回のお題は「物権変動の公示」。前号までで物権とはどういうものかを知っていただけたと思いますが、この物権というやつは目に見えません。
例えばコンビニで買った雑誌を読むも枕にするも捨てるも所有者である以上自由自在で、誰にとがめられることもありません。この至極当たり前のことの根拠が、雑誌に対する所有権という物権の効力なのですが、目に見えるのは所有権が生み出す効力で、所有権そのものは一切見えません。それもそのはず、所有権をはじめとする物権は権利という概念であり、実体などなく、したがって物理的に目に見えるものではないのです。
物権そのものが目に見えるものでない以上、その物権の変動もまた目に見えません。先の例の雑誌は、コンビニで買った時にコンビニから買った人に移転しています。正に雑誌に対する所有権という物権の移転という変動に他なりませんが、目に見えません。

さて、ここで考えてみてください。物権の変動が目に見えないからといって、なんらの対策をも講じていない社会で読者の皆様は安心して取引ができるでしょうか。雑誌程度に対する物権の変動ならいいでしょう。しかし物が高価なものになればなるほど、その物の物権変動が全く目に見えないというのは、非常に不安で恐ろしいとは思いませんか。全く目に見えないということは誰にも主張・証明できないのですから。自分が買った物の所有権が主張・証明できないのも恐ろしいですが、自分の前所有者が本当に所有者かどうかの証明が全く無いのでは、安心して物を買うこともできません。

そこでわが国の民法は、「物権の変動は公示しなければこれを第三者に対抗(主張)できない」こととしています。そして、物が不動産なら登記、動産なら引渡しを公示の方法に定めています。その他、船舶や自動車など、特別法によって公示方法が別にさだめられている物もあります。
不動産登記、動産の引渡しの詳細は後の号に譲ることになっておりますので、この号では公示制度そのもの意義や限界を述べることにしましょう。

意義は既に述べたとおりです。細かい理由も色々とありますが、大まかな理由としては「取引の安全」及び「権利の主張の方法確保」の2つが柱です。
では限界とは何でしょうか。

公示の話をする際に、必ずと言っていいほど語られるものに「公信力」というのがあります。
「日本の公示制度には公信力がない」といった具合に使われるのですが、この公信力というのは、読んで字の如し、公の信用力です。この公の信用力というのは実に強力なものです。例えば自動車の所有者が、税金の滞納をし、その自動車を差し押さえられようとしているとします。そこで友人に売ったことにし、名義を書き変えたとしましょう。自動車の所有者とその友人は売買契約を締結したとは言えませんので、自動車の所有権は全く移転していません。ですがあたかも移転したかのような登録がなされた場合、この自動車の登録という公示に公信力があると、嘘の所有者である友人からさらに車を買った第三者は当然に車の所有権を取得します。なぜなら友人は公示の上では所有者だからです。
このように、公信力というのは「ありもしない物権変動でも、いったんそれが公示されれば、真実になる」という凄まじいものです。既述ですが、日本の公示制度には、一部の例外を除き、公信力がありません。先の自動車の例で言えば、嘘の所有者である友人から嘘の登録を信用して自動車を購入しても、自動車の所有権は手に入りません。手に入る場合もありますが、それは公示制度とは違う理由によってであるに過ぎません。

ここで公信力の有無の善悪を語ると話が非常に難しくなります。なにせ公示制度に公信力を与えている国もあるくらいですから。
この号で押さえていただきたいのは、日本の公示制度が基本的に、現実にあった物権の変動を単に公に示すだけで、それ以上でも以下でもないということです。これを念頭に置いていただければ、次号からの不動産登記の制度がよく理解していただけると思います。

(作成者 佐野 晋一)