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権利の窓

2008年10月29日 民法入門46 「即時取得」

動産の即時取得  ―民法入門46―
「即時取得」

毎月、新・権利の窓をご愛読いただき誠にありがとうございます。今回のテーマは「即時取得」です。

1,「即時取得」(民法192条)とは、
「平穏かつ公然に動産の占有を始めた者が善意・無過失であるときには即時にその動産の上に行使する権利を取得する」。

(先月号までのおさらい・・・)
不動産を取得した場合は「登記」をもって、第三者に不動産の物権変動について対抗することが出来ます。
一般的に、不動産については、登記簿が作成されているので、例えばAさんが「この土地は私のものです。」と言えば、権利証と登記簿(公示)を確認し、「Aさんは所有者だな」と、納得できるでしょう。他方、動産については、8月号でご説明させていただきましたとおり、「引渡し、占有が移転した」事が、第三者への対抗要件となります。
しかし、動産は、取引が非常に頻繁に行われており、物権変動の公示手段である「引渡し」が曖昧でまったく公示の役割を果たしていません。例えば、1枚のDVDの取引についても、「私(Aさん)の持っているDVDをBさんに売りましたが、引き続き(Bさん)から借りています。」といった場合、そのDVDをBさんから買おうとしているCさんがいたとします。Cさんは慎重な人で、「あのDVDは本当にBさんのものなのか?Aさんが占有してるし・・・」と考え始めると、経済活動どころでは無くなってしまいます。そのため、法律は、安心して占有を信頼して取引をした者を保護する必要性が大きいと考えました。そこで動産については、売主が本当の所有者ではなくても、目的物を持っており、その権利者であるということを信頼して取引をした買主が目的物の引渡しを受けたときは、所有権を取得させようという制度を作りました。
この制度を「即時取得」といいます。

2,どのような場合が「即時取得」にあたるのか

AさんはBさんに本を預けました。ところがBさんはその本を自分のものとして、Cさんに売ってしまいました。
この場合を第192条に当てはめてみると、Cさんは、平穏・公然・善意・無過失(この場合“善意”とは、実はAさんの本であった事について知らなかった事。“無過失”とは、その事について過失が無かったこと。)にその動産を占有したと考えられるので、Cさんは、本の所有権を即時取得したと考えることが出来ます。

3,即時取得を主張したいけど・・・

例1の場合は、典型的なケースなので、「即時取得かな?」と判断するのは簡単だと思います。しかし、経済活動においては、様々な形態の取引があり、簡単に判断できるケースの方が少ないかも知れません。
では、どのようなときに即時取得は認められるのでしょうか?判例は、民法第192条の条文をさらに絞り込みました。
即時取得の要件とは、

(1) 目的物が動産であること
・動産であれば、登記や登録できるものでも良いとされています。(しかし、すでに登記や登録されている自動車や、船については登録されている所有者を調べることが簡単なので、適用しないとされています。)もちろん、不動産には適用がありません。

(2) 前主が物の処分権限のない者であること、占有があること 
・簡単に言えば、その目的物を実際に所持しているけど、その目的物の所有者ではない人のことです。 

(3) 有効な取引行為であること(売買など)
・有効な取引でなければなりません。例えば、未成年との取引や相手方の「完全な勘違い」による取引であった場合、取引行為自体があとで取り消されたり、無効になったりすることがあるので、法律的な問題が何も残らないような取引をする必要があります。

(4)取得者が平穏かつ公然に動産の占有を始めたこと、善意無過失であること
・「平穏かつ公然」については、(3)の有効な取引を要件としているので、(3)が整えばほとんど満たされているといってよいです。
・「占有を始めたこと」については、様々な見解がありますが、「買主がしっかりと手元においている状態」を原則としてお考えください。
「即時取得」いかがでしたか?ややこしい制度ですが、動産の取引をより円滑に行うために、取得者を保護する重要な制度です。もし、ご興味があれば、即時取得についてお勉強ください。「お金は即時取得できるのか?」「人知れず、密室で取引した場合は即時取得を主張できるのか?」
日常生活のちょっとした疑問が解決されるかも知れません。

(担当者 中林 義弥)