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2007年03月15日 民法入門30 「お金を全部かえしてちょーだい」

無効と取消 取消 意義・取消原因・取消権者 取消の効果 ―民法入門30―
「お金を全部かえしてちょーだい」

今回は取消について、例題を参考にしながらお話したいと思います。

未成年者Y君は、お金に困っていたため、父親Rさんの愛車を以前からずっとほしがっていた業者Xに、父親Rさんの同意を得ずに100万円で売却し、引渡しました。
業者Xとしては、時価200万円ほどする車を手に入れることができ、大変喜びました。
未成年者Y君は100万円のうち10万円は借金の弁済に充て、10万円は生活費に使い、60万円はギャンブルに使い、念のため10万円は手元に置いていました。

ここで、取消とは、一応有効に成立した法律行為を一定の理由によって解消しようとする意思表示で、その意思表示によって遡って初めからその法律行為の効力が失われるとするものです。
そして、未成年者は法定代理人の同意を得ずになした法律行為を取り消すことができ、その場合、法定代理人も取り消すことができます。

上記例題で、未成年者Y君が未成年であることを理由に業者Xとの間の売買契約を取り消した場合、初めから契約がなかったことになるため、業者Xは父親Rさんの愛車を返還し、未成年者Y君は受領した100万円を返還するのが原則です。

しかし、制限能力者(未成年者のほか、成年被後見人、被保佐人、被補助人がいます。)の場合には特則があり、民法第121条但書によって「現に利益を受けている限度」(以下、「現存利益」といいます。)において返還すればよいことになっています。

この「現存利益」の意味ですが、受領した金銭が生活費のような有益な消費に向けられた場合には、それだけ金銭の支出を免れたわけだから、現存利益ありといえ、逆に、浪費してしまった場合には現存利益はないと考えられています。

これを例題に当てはめてみると、未成年者Y君がギャンブルに使った60万円については、現存利益はないと考えられるため返還する必要がなく、それ以外の40万円について返還すればよいことになります。

それでは、例題において、もし、業者Xが第三者の言葉を信じて未成年者Y君を成年者であると誤信していた場合はどうなるでしょうか。

民法第21条によりますと、未成年者が法律行為の相手方に対し、自己が成年者であると誤信させるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができないとされています。

なぜなら、このような場合には未成年者等を保護する必要がないからです。

ただし、この「詐術」は、未成年者と無関係の第三者の行為によってなされた場合は含みません。

そのため、業者Xが第三者の言葉を信じて未成年者Y君を成年者であると誤信していたとしても、民法第21条の適用はなく、未成年者Y君は未成年であることを理由に売買契約を取り消すことができます。

結果的に、業者Xは「100万円全部返してちょーだい」とは言えないことになり、大変残念に思いました。
以上のようなことから、未成年者との間で取引をしようとする時は、親権者である親の同意を得ようと心に決めた業者Xでした。

(作成者 梶原 亮)