親の認知症対策としての成年後見の手続き 相続や認知症対策についてYOUTUBE動画 一般社団法人 日本想続サポートセンター
お問い合わせはこちらから

権利の窓

2007年04月10日 民法入門31 「取り消しません!!」

無効と取消 取消 取消権の消滅・法定追認 ―民法入門31―
「取り消しません!!」

1.はじめに

みなさんこんにちは。
前回は取消権のうち、誰がどのようにして法律行為を取り消すのかというお話でしたが、今回はその逆、どういう場合に法律行為を取り消せなくなるのかという点に焦点を当ててお話します。

まずは簡単に取消権について振り返ってみましょう。
取消権は、間違った意思表示をしてしまった本人(以下「表意者」)を保護するために、ある一定の要件の下で、一旦は有効に成立した法律行為の効果を否定するものでした。
これを逆に捉えると、表意者自身が取消権を放棄した場合、あるいは放棄したと解釈できる場合には、わざわざ保護してあげる必要はなくなります。また、取消しうる行為が長期間放置されてしまうと、取引の相手方は、いつ取消されるか不安でなりません。
そこで法律は、前者には「追認」「法定追認」、後者には「取消権の期間制限」という規定を設け、表意者と相手方との保護のバランスを保とうとしているのです。
以下、それぞれ項目を分けてみていきましょう。

2.追認・法定追認

追認とは、取消しうる行為を取消さずに、そのまま有効な法律行為として取り扱うことを決める、表意者からの一方的な意思表示をいいます。
一旦追認がなされると、それまで不安定であった法律行為が有効なものとして確定し、もう二度と取り消すことはできなくなることから、追認は取消権の放棄であると解されます。
なお、取り消しうる法律行為を取り消さないと決めるのが追認ですから、その行為が取り消しうるものであることを表意者が知らない場合には、そもそも追認自体が成立しえないことになります。

一方、法定追認とは、表意者が追認したと同等の行為をした場合に、表意者の意思とは関係なく、法律によって追認したものとみなしてしまう制度をいいます。
法定追認が為された後は、通常の追認の場合と同じく、表意者は取消権を行使することができなくなります。
しかし、表意者が自ら「取り消さない」と決めたのであればともかく、法律が勝手に「取り消させない」と決めてしまうのは、なんだか問題があるような気がします。
法律もきちんとその点は把握しており、条文上いくつかの要件を用意することで対応しています。その要件とは、「(1)取り消すことができる者が、(2)民法125条に列挙された行為を行い、(3)かつ意義を留めなかった場合」の三点です(民法125条)。
(1)の要件は、全く関係のない者の行為によって追認したとみなされるのは極めて不都合だという、当然の考慮です。
(2)の要件にある「民法125条列挙事由」では、概ね次のような場合が想定されています。つまり、「取り消せばお金を払わなくて済んだのに、わざわざ相手方に支払った」とか「取り消せば売らなくて済んだのに、わざわざ相手方に売買代金を請求した」…といった場合です。表意者が自ら、取り消さないことを前提にした行為を行った以上、相手方を保護するために、法律によって追認したとみなしてしまう訳です。
ただし、「本当は売りたくはないが、商品を返さないなら代金を渡せ!」というように、取消権を放棄したとまで言い切れない場合には、法定追認は及びませんので注意が必要です(要件(3))。

3.取消権の期間の制限

取り消しうる行為は、表意者の一方的な意思によって、有効なものにも無効なものにも変化します。しかし、先にも述べた通り、取り消しうる行為が長期間放置されると、取引の相手方はいつまでも不安定な立場に置かれることになってしまいます。
そこで法律は、追認をすることができる時から5年間取消権を行使しないとき、あるいは行為の時から20年が経過したときには取消権を消滅させると規定することで(民法126条前段)、すみやかに法律関係を確定させようとしているのです。
ちなみに、ここでいう「追認することができる時」とは、その行為が取り消しうるものであると知った時点のほかに、未成年が成年に達したなど、制限行為能力者が行為能力を得た時点も含んでいます。

(作成者 小南 幸右)