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権利の窓

2007年07月02日 民法入門34 「時効考察」

時効 総則 意義・存在理由 ―民法入門34―
「時効考察」

今回のお題は時効。時効と言えば真っ先に連想するのが「殺人を犯しても15年逃げ続ければ無実になる」みたいなイメージ。実際には無実になるわけではなく、公訴を提起されることがなくなるだけなのですが、ともかくこれはいわゆる「公訴時効」の話であり、今回のお題は民法に規定される時効です。ですから公訴時効のお話はできません。こっちの方が面白いんですけどね・・。おっと、いきなり出鼻で読者様の読む気を削いではいけませんね。盛り上げていきましょう。
民法の時効は当然のことながら上述の公訴時効とは別物です。では一体どんな代物なのか。端的に言うと「一定の時間の経過によって権利(物権や債権)を取得させたり消滅させたりする」ものです。ですから民法の時効はその名もそのまんまな「取得時効」と「消滅時効」に大別されます。取得時効、消滅時効がどういうものであるかの詳細は後の号に譲ることとなっておりますので、ごくごく簡単に。
まず取得時効ですが、一定期間物を占有し続けた者は、例え真実の所有者ではなくとも、その物の所有権を取得する、というもの。ちなみに時効により取得できる権利は所有権には限られません。あくまで一例として。
次に消滅時効ですが、こちらは権利を行使せず一定の期間放っておくとその権利は消滅してしまう、というものです。
ところでこの時効制度、実に曲者だとは思いませんか?取得時効にせよ消滅時効にせよ、「真実の権利状態を曲げる」ことに他なりません。
いかに空き家に勝手に住み着いた者が、事実近所の人から見てその家の所有者に見えたとしても、その家の真の所有者は自らの費用で家を建てた者であり、その事実が消え去ることはありません。しかし時効制度は、「客観的に見て所有者に見える者」がその状態をある一定期間維持するならば、真実の所有者に仕立て上げてしまうのです。当然元真実の所有者は無権利者に転落します。
憲法29条で財産権を侵してはいけないと謳っておきながら、法律に過ぎない民法で財産権が脅かされるような規定、すなわち時効制度があるのは違憲である、という見解も少なからず存在するくらいです。
ではこの曲者の時効制度、その存在意義は何なのでしょうか。
一般的に「永続した事実状態の尊重」「立証の困難の救済」「権利の上に眠る者を保護しない」の3つの理由が挙げられます。
「永続した~」とは、正にそのままの意味で、先の例で言えば、空き家に勝手に住み着いた者が客観的に所有者らしく振舞い続ければ、その振舞い続けたという事実に何らかの価値がある、とする考え方。
「立証の~」は早い話が、時間が経てば経つほど、権利関係を証明する確かな証拠が風化していき、立証が困難になるので、時効制度でスパッと解決してしまおう、的な趣旨のものです。少し、乱暴な説明ですが。この考え方は真実の権利者の保護を目的としているとされています。散々時効とは真実の権利者から権利を奪うもののように書いてきておきながら、一貫性に欠ける記述だと自覚してはいるのですが、時効制度にそういった側面があるのも事実です。例えば人から土地を買った者が、契約書も交わさず、支払った金の領収書も貰わず、登記もせずにただただ占有を続け、ある日突然売主から「あなたは不法占拠者なので即刻立ち退いて欲しい」と言われた場合、自らを所有者と立証する物が絶望的に欠けている状況下で、占有を続けた事実を権利と結びつけてくれる時効制度は正に救いの手でしょう。ただし時効がこういった側面を発揮するのは稀。なぜなら普通に考えて上記のような間の抜けた真実の所有者はなかなか存在しないからです。何の証拠も持っていないが占有している人間、なんてものは概して真実の所有者ではないのが常です。
最後の「権利の上に~」は「放っておく奴が悪い。」この一言に集約されます。消滅時効などは3つも存在理由を挙げるまでもなく、この1つだけで十分存在する価値があると言えるような気がします。行使できる権利があるのにいつまで経っても使わない奴に持たせておく必要はない。至ってシンプル。
さて、上記の例えのほとんどが取得時効で、なんだか取得時効の存在意義のみ紐解いていたような印象を、筆者はここまで書いておきながら実感しているのですが、そもそも取得時効と消滅時効は表裏一体。存在意義という根幹のところでは同じであるのだから何らの問題もないと開き直ることにしました。
という訳で既述ではありますが、取得時効と消滅時効の両者の違い、詳細は後の号に譲ります。引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。

(作成者 佐野 晋一)